日本漢詩吟詠全集 絶句編

  定価300円
朝日新聞で天声人語を担当されていた栗田亘さんが、子どもたちのために書き下ろした漢籍の奨めともいえる本で、2002年に「漢文を学ぶ(一)」が出て以来、累計で約18万部にもなる人気シリーズです(現在、6巻まで出ています)。
一つの漢文の意味を判りやすく解説してくれるだけでなく、その漢文にまつわるエピソードなどを現在実際に社会で起きている事柄も交えたりして書いています。天声人語を書かれていた著者ですから、子どもだけに読ませるにはもったいないほどの文章です。栗田亘さんの手にかかると漢文がすごく身近に感じられます。
あっという間に読めてしまうほど面白いだけでなく、読んだあと自分もちょっとだけ賢くなった気がしてうれしいかも…
「漢文を学ぶ(一)」のまえがきを全文紹介したいと思います。
                    
まえがき
 漢文が昔から好きだった。
 ただし授業で習ったのは、四十年以上も前の高校生のときだけだ。それも週に一時間かそこらで、受験を控えた三年生になると時間割りから消えてしまった。あとは独学、独習。
 といえば聞こえがいいけれど、実態は、気が向けば「論語」を覗いてみるくらい。でも、一つひとつのことばの印象はとても強くて、思いがけないときによみがえってくる。
 たとえば懐かしい友だちに会ったとき。不意に「朋有り遠方より来る……」という一節が頭に浮かび、そうかその通りなんだと、しみじみする。
 あるいは、世の中わがまま勝手な人間が多すぎるゾと嘆くとき。突如として「夜郎自大」という「史記」のことばが頭をかすめ、しかし自分もそうではないか!とうろたえる。
 漢文なんて古臭いよと、けなすのは簡単だ。けれども、読んでみると、いやこれはなかなかのもの。考え方が骨太で、筋道が通っていて、噛めば噛むほど味が出る。
 「論語」や「孟子」は、人間の知恵のかたまり、生き方の見本。ことばの一つひとつを「いまという時代」に置き換えて読み解けば、味わいはますます深い。
 そうした魅力を若いときに知っておいてよかったと、つくづく思う。若ければ若いほど、賞味期限も長くなるから。
 若いみなさん、漢文を知っててソンはないよ。そう思って、小さなこの本を書いた。このあと何冊か続編を記す心づもりでいる。